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「売る人」から「一緒に考える人」へ──役割の名乗り方を見直して気づいたこと

1.はじめに——「何をしている人ですか?」へのもやもや

私は仕事で初めてお客さまと会うとき、名刺交換の流れでよく「〇〇さんは、普段はどんな役割なんですか?」と聞かれます。

少し前まで、ここでは迷わず「営業です」と答えていました。
短くて分かりやすいし、会社の中での所属もその通りだからです。

ただ、「営業です」と言うたびに、打ち合わせの場で感じる違和感は少しずつたまっていきました。 こちらは課題の整理から企画まで一緒に考えたいのに、「この人は売りに来た営業なんだ」と受け止められている空気を、何度か経験したからです。

そこから、「自分の役割の伝え方」を見直しました。今はできるだけ「企画や営業を担当しています」「企画からご一緒する立場です」と説明するようにしています。
この記事では、その理由と、同じような立場の方に役立つ「伝え方のコツ」「なぜそれが大事なのか」を整理していきます。

2.「営業です」だけだと生まれてしまうズレ

まず、一番大きなズレは「この人に悩みを話しても意味がないかもしれない」と思われてしまうことです。 営業という言葉から、「契約をとるのが仕事」「売るのが目的」というイメージを持つ方は少なくありません。そうなると、お客さまは本音で悩みや社内事情を話すハードルが一気に上がります。

もう一つのズレは、企画書を持っていったときに起こります。
こちらとしては、お客さまと一緒に考えながら作り込んだつもりでも、「この人は、企画の人が作った資料をただ説明しているだけ」「高いプランを売りたいだけなのでは」と見られてしまうことがあります。
実際には、ヒアリングから構成、提案内容の組み立てまで自分で担当していても、「営業」という言葉だけでは、そのプロセスまでは伝わりません。

結果として、「一緒に考える相手」ではなく「売り込んでくる相手」と認識されてしまうことがある。ここに小さくないギャップがあります。
このギャップを埋める一番手前のポイントが、「役割の名乗り方」です。肩書きそのものを変えなくても、自己紹介の一言を工夫するだけで、打ち合わせの空気はかなり変わります。

3.「企画や営業を担当しています」と伝える理由

では、なぜ私が「営業です」ではなく「企画や営業を担当しています」と答えるようにしているのか。理由はシンプルで「最初の一言で、お客さまに誤解させたくないから」です。
「企画や営業」という言い方にしているのは、次のような意味を込めています。

単に商品を売るだけの立場ではなく、課題の整理から関わっている

企画書を“渡される側”ではなく、“作る側”にも立っている

どのプランが妥当か、一緒に考えることも役割の一つである

このニュアンスが伝わると、お客さまの反応は少し柔らかくなります。
初回の打ち合わせでも、「実は社内でこういう事情があって……」と、背景まで話してもらえることが増えました。表情もどこか和らぎ、構えがほどけているように感じます。

また、「企画も担当しています」と付け加えることで、「この人に話しても社内にちゃんと持ち帰ってもらえそうだ」「現場感のわかる窓口なんだ」と思ってもらいやすくなります。

結果として、打ち合わせの質が上がり、提案もお互いに納得しやすい形に近づきます。
役割の言い方を変えただけで、魔法のように全てがうまくいくわけではありませんが、「一緒に考えてくれる人」として見てもらえる確率は確実に上がりました。これは、地味ですが大きな変化であると私は感じています。

4.営業アレルギーを和らげる自己紹介のコツ

もう一つ、意識しているのが「営業アレルギー」への配慮です。

営業という言葉に、過去のしつこい勧誘や、押し売りのような経験を重ねてしまう方は一定数います。悪気がなくても、「営業です」と聞いた瞬間に、心のシャッターが半分降りてしまうこともあります。

その前提を踏まえて、自己紹介の一言には次のような工夫をしています。

① 役割を具体的に添える

「営業です」だけで終わらせず、
「企画からご提案、導入後のフォローまでを一貫して担当しています」
「課題の整理と、そこに合うプランの設計を一緒にやらせてもらっています」
といった形で、自分がどこまで関わるのかをセットで伝えます。

② 「売る」より「一緒に考える」を前面に出す

「無理に何かを売り込むというより、今の状況をお伺いしながら、必要なところだけ一緒に整理させてください」と事前に言っておくだけでも、お客さまの構えはかなり変わります。「売り込まれたくない」という不安に、先に触れてあげるイメージです。

③ 迷ったら “目的” を添える

「今日は、御社の今の状況を教えていただきながら、そもそもやるべきかどうかを一緒に考える時間にできればと思っています」というように、「話し合いの目的」を一緒に伝えると、「契約前提の場」ではなく「相談の場」として受け止めてもらいやすくなります。

こうした一言は、どれも派手なテクニックではありません。ただ、「営業です」とだけ名乗ったときよりも、相手の表情や会話の深さが確実に変わると感じています。

5.役割の伝え方を設計することの重要性

なぜ、ここまで役割の伝え方にこだわるのか。

それは、「どんな仕事をしているか」という情報そのものよりも、「あなたとどう関わる人なのか」が、最初の数分でほぼ決まってしまうからです。

たとえば、

「営業の人だから、あまり本音は話さないでおこう」

「企画のことは、別の担当に言わないとダメなんだろうな」

「高いプランを売りたいだけかもしれない」

といった認識でスタートした打ち合わせと、

「この人は、企画から一緒に考えてくれる窓口なんだ」

「悩みごとを整理する相談相手として頼っていいんだ」

という認識で始まる打ち合わせでは、同じ1時間でも、内容の濃さがまったく違います。
こちらがどれだけ真剣にヒアリングをしても、「営業の人には話してもしょうがない」と思われていると、表に出てくる情報はごく一部だけです。

一方で、「この人に話せば企画にもちゃんと伝わる」と信じてもらえれば、社内の事情や、表に出てこない制約条件まで共有してもらえます。
だからこそ、役割の伝え方は「雑談の一部」ではなく、「打ち合わせ全体の土台づくり」だと考えています。

最初の1〜2分の自己紹介を、なんとなくで済ませるのか、意図を持って設計するのか。この差が、後のコミュニケーションの質にじわじわ効いてきます。

7.おわりに——肩書きよりも「一緒に考える人」でいたい

営業という役職名そのものが悪いわけではありません。
ただ、言葉が持つイメージや、過去の経験からくる営業アレルギーは、思っている以上に根強いと感じています。だからこそ、「自分はお客さまにとってどんな存在でいたいか」を、役割の伝え方に反映させることが大切です。

私は、「売る人」ではなく「一緒に悩みを整理する人」でありたいと思っています。
そのために、「企画や営業を担当しています」「課題の整理からご一緒する立場です」といった言葉を選び、自己紹介の一言を丁寧に設計するようにしています。
役割の伝え方は、小さな工夫に見えるかもしれません。

ですが、その一言で、お客さまが「本音を話していい相手」だと感じるか、「距離を置いておこう」と感じるかが変わってきます。最初の1分で、後の60分の質が決まると言っても大げさではありません。

もし今、「なんとなく営業と名乗っている」「毎回、自己紹介がバラバラ」という状態なら、一度、紙に自分の役割を書き出してみるのもおすすめです。「実際にはどこまで関わっているのか」「お客さまにどう受け取ってほしいのか」を整理してから、短い一文に落としてみる。これだけでも、次の打ち合わせの空気は少し変わるはずです。

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