INDEX
1.はじめに——「話した量」より「疑問が消えたか」で打ち合わせは決まる
料金、進め方、事例、スケジュール。準備すればするほど、説明したい内容は増えていきます。ですが、打ち合わせが終わったあとにお客様の手元に残るのは「聞いた情報」そのものよりも、「自分たちの疑問が解けたかどうか」だったりします。
資料を最後まで説明できたかよりも「これで社内に持ち帰って判断できそう」と感じてもらえたか。「クライアントの課題の本質を一緒に整理することができたか」ここが一番大事だと、私は感じています。
そのため、打ち合わせでは最初からQ&Aの時間を“余ったらやるもの”にせず、必ず確保する前提で進めるようにしています。
Q&Aは、質問に答えるだけの時間ではなく、相手の前提や不安を言葉にして、同じ景色で話すための時間です。この記事では、私がなぜQ&Aを大切にしているのか、その理由と、実際に意識しているコツを整理します。
2.Q&Aが少ない打ち合わせで起きる「静かなすれ違い」
Q&Aの時間が十分に取れない打ち合わせは、終わった瞬間から「聞いたけど、腹落ちしきっていない」という感覚が残りやすいです。説明の内容自体は理解できても、疑問や不安が言葉にならないまま残ると、社内共有の段階で詰まったり、検討が止まったりしやすくなります。
社内共有の段階で「結局、何が決まったの?」となり、話が止まる
お客様側の不安が残ったまま「一旦検討します」で終わり、次の連絡が来なくなる
後日メールで基本的な質問がまとめて届く(打ち合わせ中に聞けなかったサイン)
良さそうだけど、何が自社に合うのか分からないが残る
これらは、説明の内容が間違っていたから起きるというより、質問を出す余白が足りなかったことが原因のケースが多い印象です。
こちらの説明はどうしても「こちらが伝えたい順番」になります。一方で、お客様の頭の中には「気になっている順番」があります。
この順番がズレたまま進むと、情報は届いているのに、納得が積み上がりません。だから私は、Q&Aをうまく活用しながらすり合わせることを重視しています。

3.Q&Aが信頼につながる三つの理由
Q&Aを大切にする理由は、疑問解消だけではありません。打ち合わせ全体の質が上がる理由が、いくつかあります。
① お客様の「優先順位」が見える
質問は、そのまま関心の優先順位です。
料金なのか、運用負担なのか、社内稟議なのか、現場の反発なのか。ここが分かると、提案の組み立てが具体的になります。的外れな説明が減り、話が早くなります。
② 「一般論」から「自社の話」へ寄せられる
資料だけだと、どうしても一般的な説明に寄ります。
Q&Aで前提条件を確認しながら話すことで、「御社の場合だと、ここがポイントになりますね」と、現実に寄せた会話ができます。ここで初めて、提案が“自分ごと”になります。
③ 「相談していい相手」だと思ってもらえる
質問しやすい空気があると、お客様は本音を出しやすくなります。
逆に質問が出ないまま終わると、「距離のある相手」のままになりやすい。Q&Aは、信頼関係の入り口でもあると思っています。
④ 質問を通じて「潜在的な課題」に気づいてもらえる
ここが今回、特に組み込みたい視点です。
お客様の中には、困りごとをうまく言語化できていないケースが少なくありません。問題が“見えている”というより、「なんとなくモヤモヤしている」「どこから手を付けたらいいか分からない」という状態です。このとき、こちらが答えを出して説明し続けるよりも、問いかけを通じて“気づき”を作る方が前に進みます。
たとえば「運用が大変」という言葉の裏に、属人化・例外処理・繁忙期のボトルネック・社内の合意形成など、別の論点が隠れていることがあります。質問で具体化していくと、お客様自身が「本当はここがネックだった」と整理できる。これができると、提案も現実的になりますし、判断も速くなります。
4.Q&Aを確保するための打ち合わせ設計
Q&Aを大切にしたいと思っていても、当日の流れに押されると消えやすいです。だからこそ、私は“設計”で担保します。
説明は「要点に絞る」と先に決めておく(話し切ることを目的にしない)
途中で区切ってミニQ&Aを挟む(10〜15分に一度)
その場で答えきれない質問は「持ち帰りリスト」にして、最後に回収する
資料の後半は「読む用」に割り切り、口頭は要点中心にする
特に効くのは「途中で区切る」ことです。打ち合わせ終盤は時間が気になり、お客様も遠慮しやすい。途中で一度止めるだけで、質問の出方が変わります。
加えて、潜在課題に気づいてもらうには、Q&Aが“最後の数分”だと難しいです。深掘りが必要だからです。だからこそ、最初から「問いを交わす時間」を設計に入れておくのが重要だと思っています。

5.質問が出る空気をつくるコツ
「何か質問ありますか?」と聞いても、沈黙になることは珍しくありません。
その沈黙は、理解できたサインとは限りません。
「どこから聞けばいいか分からない」「基本的すぎて聞きづらい」が多いです。そのため私は、冒頭に“質問していい空気”を置くようにしています。また、質問を促すときは、なるべくYes/Noで終わらない聞き方をします。
たとえば、
「不安な点はありますか?」よりも、
「運用面で一番心配なのはどのあたりですか?」
の方が答えやすいです。
質問が出るかどうかは、お客様の性格だけでは決まりません。こちら側の場づくりで、かなり変わります。
6.Q&Aの質を上げる「答え方」と「こちらからの質問」
Q&Aは、時間を取るだけでは足りません。質を上げるには、答え方と、こちらからの質問が重要です。答え方で意識していることは下記です。
条件が変わりうる話は、無理に言い切らず「確認して今日中に返します」と伝える
いきなり結論を出さず、前提(体制・頻度・目的)をそろえてから答える
「それは気になりますよね」と一度受け止めてから説明する
最後に短く要約して着地させる(「つまり、ポイントはここです」)
特に「その場でうまく答えようとして曖昧に言い切る」のは避けています。後からズレたときに、信頼を削るからです。誠実に持ち帰る方が、結果としてスムーズに進みます。
そして、こちらからの質問も大事です。Q&Aは“質問を受ける時間”だけではなく、“問いを一緒に整える時間”でもあります。
たとえば私は、よくこんなことを聞きます。
「導入後の運用は、誰が担当するイメージですか?」
「最初の1〜2か月で、どんな状態なら“順調”と言えそうですか?」
「社内で説明するとしたら、誰が一番気にしそうですか?」
「現状の運用で、負担が大きい工程はどこですか?」
こうした質問を挟むと、会話が一気に具体化します。結果として、お客様の質問も出やすくなり、打ち合わせ全体が“判断の場”になっていきます。
7.おわりに——Q&Aは「次の一歩」を決める時間
打ち合わせは、こちらが上手に話す場というより、相手が判断できる状態になる場です。
そのために、私はQ&Aの時間を最初から確保し、丁寧に扱うようにしています。
説明を詰め込みすぎず、要点に絞って余白を残す。質問が出る空気をつくり、答え方は誠実に、前提をそろえる。そして、こちらからの問いで状況を具体化する。どれも派手なテクニックではありません。でも、積み重ねるほど効きます。
「話が整理できた」「社内で説明できそう」と言ってもらえる確率が上がるからです。
もし最近、打ち合わせが「説明して終わる」感じになっているなら、次回だけでもQ&Aの時間を先に確保してみてください。その時間が、次の一歩を決めていきます。


