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1 はじめに:ランチ客とディナー客は「別人格」
「ランチはあれだけ混雑するのに、なぜ夜の集客に繋がらないんだろう…」 多くの飲食店オーナーが抱えるこの悩みは、実はマーケティングの視点が少しズレていることが原因かもしれません。
結論から言えば、同じお客様であっても、ランチに来るお客様とディナーに来るお客様は「別人格」です。
ランチに求めるのは「手軽さ・コスパ・スピード」。一方、ディナーに求めるのは「特別感・くつろぎ・ゆっくりとした会話」。この全く異なるニーズを無視して、「ランチが気に入ったなら夜も来るはずだ」と期待するのは、的外れな戦略になってしまいます。
客単価を伸ばす鍵は、この「別人格」の存在を理解した上で、ランチ客の脳内に「夜に来る理由」の伏線を仕込むこと。この記事では、広告費をかけずに既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化する、「時間帯別オファー」の具体的な設計と思考法を解説します。
2 なぜ「時間帯別オファー」が有効なのか?
「時間帯別オファー」とは、ランチ客には「ディナー用の特典」を、ディナー客には「次回のディナー用(あるいはランチ用)の特典」を渡すなど、顧客の来店時間帯に応じて提供する情報を意図的に切り替える手法です。これが有効な理由は3つあります。
2-1. “夜の顔”を知るきっかけを作れる
ランチの満足度がいくら高くても、お客様は「夜のメニューは高いのでは?」「夜の雰囲気はどうなんだろう?」という心理的ハードルを持っています。ランチ時に「夜の看板メニューで使えるドリンク1杯無料券」などを渡すことで、そのハードルを越える「きっかけ(=来店動機)」を提供できます。
2-2. 脳内メモとワンセットになる
クーポンは、単なる割引券ではありません。それはお客様の「脳内メモ」として機能します。「夜に使える」という情報が手元にあることで、お客様が次に「今夜どこで食べようか?」と考えた時、あなたの店が選択肢として思い出される確率(想起率)が劇的に上がります。
2-3. 同じ客層を深掘りするので広告費が要らない
この施策の最大の強みは、新規顧客ではなく、すでに一度来店してくれた(=お店の価値をある程度知っている)既存顧客にアプローチする点です。新たな広告費は一切かかりません。さらに顧客情報が店内 POS に蓄積されるため、次の施策も設計が楽になります。

3 ランチ客を夜に呼ぶ「4つの伏線」
では、具体的にどう「夜の伏線」を張ればよいのでしょうか。4つのシンプルな方法をご紹介します。
オファー(クーポン)を“夜に特化”させる
最も強力な方法です。「ランチ100円引き」のようなその場で使えるクーポンではなく、「ディナー限定:乾杯スパークリング1杯プレゼント」「夜のコースご注文で1,000円 OFF」など、明確に夜の利用を促す特典を設計し、ランチの会計時に手渡します。
接客トークで“夜の顔”を刷り込む
「ありがとうございます。夜は照明を落として、〇〇(地酒やワインなど)に合う限定メニューもご用意してますので、ぜひ一度いらしてください」 この一言を会計時に添えるだけです。ランチの満足感と「夜の特別感」という情報が結びつき、期待感を醸成します。
ランチで“夜の片鱗”を体験させる
例えば、ランチのスープや小鉢に、ディナーメニューで使っているこだわりの出汁や食材を使い、「これは夜の〇〇というメニューと同じ出汁を使っています」と一言添える。味覚という最も強い記憶に「夜の体験」を紐づける、高度なテクニックです。
店内POPで“別世界”を可視化する
ランチ客の目に入るところに、ディナータイムの魅力的な料理写真や、照明を落としたムーディな内装の写真、楽しそうに乾杯するお客様の(許可を得た)写真などを掲示します。「昼の顔」しか知らないお客様に、「夜の顔」を視覚的にインプットします。
4 ランチ客とディナー客を混ぜてはいけない
注意点として、ランチタイム(特にピーク時)に、ディナーと同じ重厚なメニューブックを渡したり、高額なコースの説明をしたりするのは逆効果です。「手軽さ」を求めている顧客体験を阻害し、回転率を下げる原因にもなります。あくまでアプローチは「会計時」や「POP」など、ランチ体験を邪魔しない形で行うのが鉄則です。

5 昼と夜の「別世界感」を演出する
夜に来店してくれたお客様をがっかりさせないためにも、「昼とは違う」体験を演出することは非常に重要です。
BGMの変更:
昼はテンポの速いBGM、夜はゆったりとしたジャズやクラシックに変える。
照明の変更:
昼は明るく、夜はテーブルのキャンドルや間接照明が際立つよう、全体の照度を落とす。
カトラリーの変更:
昼はエコ箸や紙ナプキン、夜は上質な箸や布ナプキンに変える。
こうした小さな違いの積み重ねが「特別感」となり、ディナーの価格帯に対する納得感(価格受容性)を高めます。
6 “夜に繋がる昼”を回すスタッフワーク
これらの施策は、すべて「人」が実行します。
目的の共有
なぜ時間帯別オファーをやるのか?(=客単価を上げ、利益率を改善するため)という目的をスタッフ全員で共有します。
トークの標準化
「夜の伏線」で紹介したような接客トークを、1〜2パターンのシンプルな台本にし、全員が同じレベルで言えるように練習します。
体験の“非連続点”を潰す
もしお客様が夜に来店された際、ランチのクーポンを提示したら、スタッフは「お待ちしておりました!」と笑顔で受け入れること。こうした視覚・聴覚への刺激が“昼との違い”を直感させ、価格帯アップの心理的ハードルを下げます。昼の体験と夜の体験がスムーズに繋がるよう、スタッフ間の情報共有を徹底します。
7 おわりに:客単価向上は、既存顧客の「深掘り」から
新規顧客を獲得し続けるのは、多大なコストと労力がかかります。しかし、すでにあなたの店を選んでくれたランチ客は、未来の優良ディナー客になる可能性を秘めた「資産」です。
彼らの「別人格」を理解し、適切な「伏線」を仕込むこと。この地道な「時間帯別オファー」の積み重ねこそが、広告費ゼロで客単価と利益率を着実に向上させる、最も堅実なマーケティング戦略なのです。
もし「うちの店でも応用できるだろうか」「広告費をかけずに売上を上げたい」とお悩みでしたら、ぜひ一度お気軽にご相談ください。お店の状況や目標に合わせた、最適なプランをご提案させていただきます。もちろん、「記事のこの部分について、もう少し詳しく聞きたい」といった小さなご質問だけでも大歓迎です。経験豊富なスタッフが丁寧にサポートいたしますので、どうぞご安心してお問い合わせください!


